インフルエンザ治療薬について
本日はインフルエンザ治療薬についてご説明します。
インフルエンザの治療は抗ウイルス薬の投与が中心となります。現在日本では、次の5種類の抗ウィルス薬が処方されています。(発売順に左→右)
Ⅰ.作用機序
作用機序により2つに分類されます。
①ノイラミニダーゼ阻害剤
リレンザ、タミフル、ラピアクタ、イナビルです。
インフルエンザウイルスは細胞内に侵入した後、自らが保有するRNAという遺伝情報を細胞内へ放出し新たなウイルスを作り出すために必要な遺伝子やタンパク質を合成し、その後新たなウイルスが作られ細胞の外へ放出されます。これを繰り返すことでインフルエンザウイルスの増殖・拡散が行われます。新たに作られたインフルエンザウイルスが細胞表面から放出される際にノイラミニダーゼという酵素が必要となります。ノイラミニダーゼ阻害作用によりウイルスを細胞表面に留まらせ、細胞からのインフルエンザウイルスの遊離を抑えることで、ウイルスの増殖(体内での拡散)を抑えます。
②Capエンドヌクレアーゼ阻害剤
ゾフルーザです。
インフルエンザウイルス特有の酵素であるCap依存性エンドヌクレアーゼの活性を選択的に阻害し,ウイルスのmRNA合成を阻害することでインフルエンザウイルスの増殖を抑制する新しい作用機序を有した薬剤です。
作用機序が違うため、ノイラミニダーゼ阻害剤耐性ウィルスに対しても有効です。
開発時の臨牀試験では、タミフルよりインフルエンザウイルスが 有意に早く減少するという成績でした。
また、基礎実験では、A(H1N1) 亜型、A(H3N2)亜型及び B型インフルエンザウイルスを感染させたマウス に対して、各種抗インフルエンザ薬を投与した後の肺内ウイルス力価の推移をみる検討でも、ウイルス力価の減少が最も大きいのはゾフルーザでした。一部のノイラミニダー ゼ阻害薬には B 型インフルエンザウイルスに対する効果の弱いものがありますが、本剤はB 型インフルエンザウ イルスに対しても強い 抗ウイルス活性を示しました。
Ⅱ. 妊婦や授乳婦への抗インフルエンザ薬の安全性は?(福岡県薬会報より抜粋)
妊婦は感染症が重症化しやすく、発症後48時間以内の抗インフルエンザ薬投与が重症化予防に有効であることが、パンデミック(H1N1)2009時に明らかにされ、日本産婦人科学会は妊婦への抗インフルエンザ薬投与を推奨している。授乳婦は、乳児のケアが可能な状況であれば、マスク・清潔ガウン着用、手洗い厳守により、直接母乳を与えても良い。重症でケアが不能な場合には、搾母乳を健康な第3者が与える。
Ⅲ.耐性について
抗インフルエンザ薬の有効性が弱くなる可能性のあるウイルスのことです。薬剤耐性のインフルエンザウイルスは、遺伝子検査によりウイルス内部のアミノ酸配列に変異がみられます。
インフルエンザウイルスは増殖する過程において、遺伝子に変異が起こることが知られていす。ウイルスは遺伝情報の伝達にRNAもしくはDNAの一方のみを使います。一般的にDNAウイルスの場合、複製エラーが生じた場合にはそれを修復する機能がありますが、RNAウイルス(インフルエンザウイルス)にはその修復機能がないため、遺伝子変異が生じやすいと考えられています。
Ⅳ.薬剤耐性のインフルエンザウイルスの発生状況
→抗インフルエンザ薬剤耐性株サーベイランス2019年1月28日
2018/2019シーズン (データ更新日:2019年01月28日)
横浜市の2小学校において、2018年12月にインフルエンザの集団発生が報告され、その時の調査でゾフルーザを投与された児童2人から検出されたウィスルの遺伝子解析を行ったところ、ウィルス内部のアミノ酸配列に変異(PA I38T耐性変異)が認められたということです。いずれもA香港型-A(H3N2)でした。
2017/2018シーズン (データ更新日:2019年01月21日)
Aソ連型-A(H1N1)pdm09においてノイラミニダーゼ耐性株が52例認められました。内訳はタミフル26例(1.7%)、ラピアクタ26例(1.7%)でした。A香港型、B型に耐性株は認められませんでした。
薬剤耐性ウィルスに感染したかどうかは、通常の医療機関では検査できません。
耐性ウイルスを調べるためには、遺伝子検査・薬剤感受性検査が必要なため、各地区の地方衛生研究所・国立感染症研究所で実施されています。
抗インフルエンザ薬は薬剤耐性ウイルスに対しても効果が確認されています。ですので、あまりご心配されないようお願いします。