チメロサールについて(再掲載)
チメロサール(thimerosal:エチル水銀チオサリチル酸ナトリウム)は、ワクチンのバイアル(瓶)製剤を、開封後に細菌汚染から防止する目的として殺菌・保存剤として添加されています。
1928年にオーストラリアでジフテリアの予防接種の注射薬に病原体が混入して注射を受 けた多数のこどもが死亡する事件が起こり、1940年代から少量で効果が高く安いことなどを理由に、60年以上にもわたって世界各国で使われてきました。
水銀原子と炭素原子が直接結合している化合物を有機水銀と呼びます。水俣病の原因となるメチル水銀は脳や神経系に移行しやすく、運動失調や感覚異常などの多様な中枢神経障害が現れます。胎児は大人よりも影響を受けやすく、妊娠中の母親がメチル水銀を摂取した場合、母親は無症状であっても生まれた子どもに強い症状が出た事例も知られています。血中濃度の半減期は44~80 日と推定されており、摂取後2か月でもまだ半分以上が体内に残ります。一度体内に取り込まれると長期間残存することになります。
一方、チメロサール(エチル水銀チオサリチル酸ナトリウム)は、体内で代謝されて約50%が「エチル水銀」になります。エチル水銀の血中濃度半減期は1週間未満とされており、1か月で約1/30に2ヵ月後は1/500以下となり、メチル水銀より6~10倍早く体内から排出されるとされています。
エチル水銀の毒性は、局所の発赤や腫脹などの皮膚過敏症がみられるということ以外はあまり分かっていません。2000年米国で、水銀中毒の症状と自閉症の症状が類似しているため、自閉症の増加をワクチンによる水銀暴露と関連づけた報告がありました。ここ十数年の間に乳幼児が接種するワクチンの種類や本数が増え、また、より低い月齢で接種を受けるようになり、結果として予防接種による水銀暴露が増加し自閉症が増えたという主張でした。しかし、その後の多数の研究でチメロサールと自閉症の因果関係を示す決定的な証拠は認められず、2004年、IOM(米国科学アカデミーの医学協議会)はチメロサールと自閉症の関係を正式に否定しました。WHO(世界保健機構)も「エチル水銀は半減期が短く暴露は比較的短時間であること、さらに体内に蓄積されるメチル水銀と違いエチル水銀は腸管から盛んに排泄されるため、ワクチン中のチメロサールにさらされた小児、成人における毒性を示す根拠はない」という見解を示しました。
しかし、ワクチンのより高い安全性を求め、極微量とはいえ有機水銀を医薬品の中に添加するのは好ましくないと考えられる ようになり、WHO、米国、欧州などはワクチンに添加されるチメロサールをできるだけ除去、低減していく方向にあります。
日本も同様に、4、5年前まではチメロサールフリーワクチンを推奨する風潮でしたが、ここ数年は十分量が製造できていないのが現状です。今年度も阪大微研のフルービックシリンジ(接種対象は3歳以上)しか製造されていません。
※当クリニックでは前年度までの実績により、十分量のチメロサール・フリーワクチンが納品されています。
チメロサール・フリーワクチンをご希望の方は、受付時にお申し出ください。