MSDの9価子宮頸がんワクチン、6月にも承認へ

5年前に承認申請した9価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン「シルガード9水性懸濁筋注シリンジ」が、早ければ6月に正式承認される予定です。

MSDの9価HPVワクチン、定期接種化が焦点に  厚労省、6月にも承認へ

日刊薬業 2020/5/23

MSDが2015年7月に承認申請した9価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン「シルガード9水性懸濁筋注シリンジ」(一般名=組換え沈降9価HPV様粒子ワクチン〈酵母由来〉)について、厚生労働省は22日、薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会で承認が了承されたと発表した。早ければ6月にも正式に承認され、国内で3つ目のHPVワクチンになる。予防接種法でHPVワクチンは定期接種の対象になっているが、「積極的な接種勧奨の差し控え」が続く中、新たなワクチンを定期接種に組み入れるかどうかが今後の焦点になる。

シルガード9は、HPV6、11、16、18、31、33、45、52、58型の感染に起因する子宮頸がん、尖圭コンジローマなどを予防する効能・効果がある。

9歳以上の女性に1回0.5mLを合計3回、筋肉内に注射。通常、2回目は初回接種の2カ月後、3回目は6カ月後に接種する。

海外では14年に米国、15年に欧州で承認を取得し、現在は約80カ国で承認されているが、日本では審査が長引いていた。MSDの申請後、部会が結論を出すまでに約5年を要したことについて、厚労省は「日本で報告された(HPVワクチンの)有害事象なども踏まえ、海外の市販後データを精査するなどして時間がかかった」と説明している。

●定期接種化の可否、厚生科学審議会で検討
 シルガード9が正式に承認されれば、厚労省として「定期接種化を検討する」(健康局)。具体的には、厚生科学審議会の予防接種・ワクチン分科会で定期接種化の可否を検討することになる。

国内では現在、個人輸入した同ワクチンを接種している医療機関もあるが、希望者は3回の接種で10万円前後を負担している。正式承認後にMSDが発売した場合、3回の接種で万単位の費用がかかると予想され、自己負担の任意接種か、公費負担の定期接種かで接種率にも影響が出てくるとみられる。

●「ガーダシル」は男性接種に向けて申請
 シルガード9の承認を部会が認めたことを受け、MSDは「今後、厚労省によって正式に承認されるのを待ちたい」とコメント。「今後も子宮頸がんなど、HPV関連疾患の予防に貢献できるよう努めていく」としている。

MSDは2月、すでに発売している4価HPVワクチン「ガーダシル」について、女性だけでなく男性にも接種できるように適応拡大を申請した。想定している接種年齢や効能・効果については明らかにしていない。シルガード9については、男性への接種のための適応拡大は申請していないという。

●自民・三原議員「止まっていた7年間が動き出した」
 自民党「HPVワクチンの積極的勧奨再開を目指す議員連盟」の幹事長を務める三原じゅん子参院議員は取材に対し、シルガード9の承認を部会が認めたことについて「(積極的勧奨の差し控えが決まった13年以降)止まっていた7年間が動き出した。着実に一歩ずつ進んでいる」と評価した。20日の議連では、出席した議員や医療関係者から、承認後の定期接種化を求める声も出ていた。

三原議員はHPVワクチンの男子への接種の動きも進めるべきだとして、「皆の命を守るのは政治の責任だ」とコメントした。

●HPV訴訟原告団・弁護団「厚労省が審議を強行」
 一方、HPVワクチン薬害訴訟全国原告団・弁護団は22日に声明を発表し、シルガード9は「ガーダシルとその基本的成分と設計を同じくしている」とし、すでに承認している国では「深刻な副反応に苦しむ被害者が多数生まれている」との見解を示した。

また、4月時点で「本剤の承認に反対するとともに、PMDAにおける審査に5年を要した本剤を、緊急事態宣言が出されている最中に、持ち回り審議という異例の方法で審議することに強く反対した」と振り返った上で、「厚労省が審議を強行したことは、不当という他はなく、ここに強く抗議する」としている。

原告団・弁護団は、「副反応被害者や研究者も参加する公開の検討会」の開催などを求めている。

国内で承認されているHPVワクチンは2価(サーバリックス)と4価(ガーダシル)の2種類があります。2価ワクチンは子宮頸がんの主な原因となるHPV-16型と18型に対するワクチンです。一方4価ワクチンは16型・18型と、良性の尖形コンジローマの原因となる6型・11型の4つの型に対するワクチンです。これらワクチンはHPVの感染を予防するもので、すでにHPVに感染している細胞からHPVを排除する効果は認められません。したがって、初めての性交渉を経験する前に接種することが最も効果的です。現在世界の80カ国以上において、HPVワクチンの国の公費助成によるプログラムが実施されています。なお、海外ではすでに9つの型のHPVの感染を予防し、90%以上の子宮頸がんを予防すると推定されている9価ワクチンが接種され始めていますが、日本ではまだ承認されていませんでした。それが今回、5年の時を経てやっと正式承認される予定です。

日本では、子宮頸がんワクチンは2013年4月よりHPVワクチンは定期接種となって、積極的に推奨(小学6年生全員に予診票を送付)されていました。しかし、子宮頸がん予防ワクチン接種後に、複合性局所疼痛症候群などの慢性の痛みを伴う事例や、関節痛が現れた事例などの報告があり、緊急に専門家による検討が行われました。
その結果、定期接種の実施を中止するほどリスクが高いとは評価されませんでしたが、ワクチンとの因果関係を否定できない持続的な疼痛が子宮頸がん予防ワクチン接種後に特異的に見られたことから、定期接種を積極的に勧奨すべきではないとされ、一時差し控えの措置となりました。
子宮頸がん予防ワクチン接種後に見られる主な副反応として、発熱や接種した部位の痛みや腫れ、注射による痛み、恐怖、興奮などをきっかけとした失神などが挙げられます。

頻度 サーバリックス ガーダシル
10%以上 痒み、注射部位の痛み・腫れ、腹痛、筋痛・関節痛、頭痛 など 注射部位の痛み・腫れ など
1~10%未満 じんま疹、めまい、発熱 など 注射部位の痒み・出血、頭痛、発熱 など
1%未満 注射部位の知覚異常、しびれ感、全身の脱力 手足の痛み、腹痛 など
頻度不明 手足の痛み、失神、 など 疲労感、失神、筋痛・関節痛 など

(平成25年6月時点の添付文書に基づく)
また、ワクチン接種後に見られる副反応については、接種との因果関係を問わず報告を収集しており、定期的に専門家が分析・評価しています。その中には、稀に重い副反応の報告もあり、具体的には以下のとおりとなっています。

病気の名前 主な症状 報告頻度※
アナフィラキシー 呼吸困難、じんましんなどを症状とする重いアレルギー 約96万接種に1回
ギラン・バレー症候群 両手・足の力の入りにくさなどを症状とする末梢神経の病気 約430万接種に1回
急性散在性脳脊髄炎 (ADEM) 頭痛、嘔吐、意識の低下などを症状とする脳などの神経の病気 約430万接種に1回
複合性局所疼痛症候群 (CRPS) 外傷をきっかけとして慢性の痛みを生ずる原因不明の病気 約860万接種に1回

 

(※2013年3月までの報告のうちワクチンとの関係が否定できないとされた報告頻度)

シルガード9の有効性について、日本を含む国際共同第Ⅱ/Ⅲ相試験が行われました。
→国際共同第Ⅱ/Ⅲ相試験(最終報告):Lancet. 2017 Nov 11;390(10108):2143-2159.
その結果、シルガード9の発症率:1,000人年あたり0.1例(有効率 96.7%)とかなりの予防効果が確認されました。