子宮頚がん

1. 子宮頸がんとは
婦人科のがんで最も多い子宮がんには、子宮頸がんと子宮体がんがあります。
子宮頸がんは、子宮の入り口の子宮頸部とよばれる部分から発生します。子宮の入り口付近に発生することが多いので、普通の婦人科の診察で観察や検査がしやすいため、発見されやすいがんです。また、早期に発見すれば比較的治療しやすく予後のよいがんですが、進行すると治療が難しいことから、早期発見が重要です。
WHOによると、世界で2018年の子宮頸がんの新規患者は推定57万人毎年31万人を超える女性が死亡しており、有効な対策を施さないと、この数は2040年までに46万人に増加すると予想しています。

2. 子宮頸がんの発生要因
子宮頸がんの発生には、その多くにヒトパピローマウイルス(HPV:Human Papillomavirus)の感染が関連しています。HPVは、性交渉で感染することが知られているウイルスです。子宮頸がんの患者さんの90%以上からHPVが検出されることが知られています。HPV感染そのものはまれではなく、感染しても、多くの場合、症状のないうちにHPVが排除されると考えられています。HPVが排除されず感染が続くと、一部に子宮頸がんの前がん病変や子宮頸がんが発生すると考えられています。また喫煙も、子宮頸がんの危険因子であることがわかっています。
HPVには複数の型がありますが、最近、一部の型のHPV感染を予防できるワクチンが使用可能になっています。たとえ、ワクチン接種を受けた場合であっても、定期的に子宮頸がん検診を受けることが大切です。世界保健機関(WHO)は、子宮頸がんは「予防・治療が可能」と強調し、そのために「早期診断とワクチンの普及が欠かせない」としています。

3. 世界での子宮頸がん発生率と死亡率
子宮頸がんの発症数は全世界で年間50万人を超え、死亡者数は30万人を上回っています。
その発症数は、アフリカや中央及び南アジアなど発展途上国で高い傾向にあり、先進国は低い傾向が見られます。

日本の胃がんや肝臓がんの死亡率は減少しています。一方で増えているがんもあります。よく指摘されるのが子宮頸がんで、ときに「先進国で子宮頸がんが増えているのは日本だけ」とも言われています。
英国、ドイツ、米国は明らかに減少していますし、フランスはもともと低く、横ばいかやや減少です。一方で日本は2000年以降やや増加しています。


日本で子宮頸がんが増加している理由の一つとして、日本での子宮頸がん検診受診率の低さが指摘されています。
世界保健機関(WHO)は、子宮頸がんは「予防・治療が可能」と強調し、そのために「早期診断とワクチンの普及が欠かせない」としています。日本は検診受診受診率が低いため、早期発見率が低いのです、

4. 世界における子宮頚がんワクチンの接種率と安全性
HPV ワクチンは全世界で 130 カ国以上で販売され、2016 年 1 月の時点で 65 カ国において国の予防接種プログラムが実施されています。WHO は子宮頸がんや HPV 関連疾患を世界的な公衆衛生上の問題として重要視しており、 HPV ワクチンを国の接種プログラムに導入すべきであると繰り返し推奨しています 。さらに WHO は2価・4価・9価いずれのワクチンも、優れた安全性と有効性のプロファイルを示すと結論しています 。
オーストラリアでは2007年からHPVワクチン接種に積極的に取り組んできました。他国に先駆けて公費によるHPVワクチン接種プログラムを導入した国でもあります。10代の女子は学校でHPVワクチンの無償接種を受けることができ、また19歳から26歳の女性もかかりつけ医のもとで無償接種を受けられます。このため同国では、例えば15歳女子の接種率は78.6%(2016年)と高くなっています。
オーストラリアでは2028年までには、子宮頸がんの診断を受ける女性が10万人に4例未満まで減ると予想されています。
オーストラリアがんカウンシルによれば、HPVワクチン接種の取り組みにより、HPVによる子宮頸がんは77%も激減し、現在、オーストラリアで子宮頸がんの診断を受ける女性の割合は、10万人に7例まで下ががりました。日本では10万人に16例なので、オーストラリアはすでに日本の半分以下となっています。

HPV ワクチンの安全性については、WHO のワクチンの安全性に関する専門委員会 (GACVS)が、世界中の最新データを継続的に解析し、2013 年以後繰り返し HPV ワク チンの安全性を示してきました。WHO は平成 29年7月の最新の HPV ワクチン Safety update において、本ワクチンは極めて安全であるとの見解を改めて発表しています。 この中で、最近の世界各国における大規模な疫学調査においても、非接種者と比べて 有意に頻度の高い重篤な有害事象は見つかりませんでした 。

一方、HPV ワクチンは筋肉注射であるため、注射部位の一時的な痛みは 9 割以上、一 過性の発赤や腫れなどの局所症状は約 8 割の方に生じます。また、若年女性で注射時 の痛みや不安のために失神(迷走神経反射)を起こした事例が頻度は少ないですが報 告されているため、接種直後は 30 分程度安静にして異常がないことを確認することも 重要です。

5.日本における HPV ワクチン接種の経緯と現状
日本においては平成22年度から HPV ワクチン接種の公費助成が開始され、平成25年4月に予防接種法に基づき定期接種化されました。しかし、接種後に慢性疼痛や運動障害などの多様な症状が報告され、わずか2ヶ月後の同年6月に接種の積極的 勧奨が中止されたまま(現在も定期接種は継続)です。
公費 助成導入期の接種対象であった平成 6〜11年度生まれの女子の HPV ワクチン接種率が 70%程度であったのに対して、平成 25年6月の接種の積極的勧奨中止により平成 12 年度以降生まれの女子では接種率が劇的に低下し、平成14年度以降生まれの 女子では 1%未満の接種率となっています。その結果として、将来の日本では、 接種率が高かった世代においては HPV 感染や子宮頸がん罹患のリスクが低下する一方 で、平成 12 年度以降に生まれた女子ではワクチン導入前世代と同程度のリスクに戻っ てしまうことが推計されています。

6.日本における HPV ワクチン接種後に報告された多様な症状に対する調査

日本において、ワクチン接種後に報告された慢性疼痛や運動障害、起立性調節障害 などを含む多様な症状に関しては、国内外において多くの解析が慎重に行われてきましたが、現在までに当該症状とワクチン接種との因果関係を証明するような科学的・ 疫学的根拠は示されておりません。

平成27年9月の第15回の厚生労働省副反応検討部会において、接種後の多様な 症状は機能性身体症状であるという見解が確認されています。また国内で接種を受けた、のべ 890万回接種(約338万人)を対象とした有害事象が検討され、多様な症状 (頭痛、倦怠感、関節痛、筋肉痛、筋力低下、運動障害、認知機能の低下、めまい、 月経不整、不随意運動、起立性調節障害、失神、感覚鈍麻、けいれん等)が未回復で ある方(追跡できなかった方や未報告の症例は除く)の頻度は 10 万人あたり約5人 (0.005%)であると報告されました 。その後も追跡調査は継続的に行われています。

平成 29年11月の厚生労働省の第31回副反応検討部会において最新の国内における HPV ワクチン接種後に生じた症状の報告頻度が公表されました。これによると、平成29年4月末までの副反応疑い報告数は 3,080 人(10 万人あたり 90.6人)であり、うち医師又は企業が重篤と判断したものは 1,737人(10万人あたり 51.1人)とされまし た。また、HPV ワクチン接種後に生じた症状について議論が行われ、これまでに HPV ワクチン接種後に生じた多様な症状と HPV ワクチンとの因果関係を示唆する新しい質の高いエビデンスは報告されていないこと、臨床の現場では医師の専門性の違い、主たる症状の違い等により、同一と思われる状態でも、様々な傷病名で診療が行われている実態があるものの、それらは機能性身体症状と同一のものであると考えられるとの 見解が発表されております 。

また、HPV ワクチン接種後の局所の疼痛や不安等が機能性身体症状を惹起したきっかけとなったことは否定できないが、接種後1か月以上経過してから発症している症例は、接種との因果関係を疑う根拠に乏しいと副反応検討部会では整理されています。

大阪大学大学院医学系研究科の上田豊講師(産科学婦人科学)らの研究グループは、HPVワクチンの積極的勧奨が再開された場合に直面する課題への対応策を提言としてまとめ、発表しました。
HPV感染リスクと子宮頸がん発症リスクを減らすためにはHPVワクチンの接種が重要」と、研究グループは強調しています。
厚労省の積極的勧奨が再開された場合に、
(1)HPVワクチンの積極的勧奨一時差し控えによる子宮頸がん罹患リスク上昇の軽減、
(2)積極的勧奨が再開された場合のHPVワクチン再普及、が課題となることを示している。
そのうえで、研究グループは次の6点を提言している――。
(A)ワクチン接種を見送って対象年齢を超えた女子へ接種を行うこと
(B)子宮頸がんの8~9割が予防できると考えられている9価ワクチンを導入すること
(C)HPVワクチンを見送った女子と同年代の男子へ接種を行うこと
(D)子宮頸がん検診の受診勧奨等による、積極的勧奨一時差し控えによる健康被害を軽減すること
(E)行動経済学的手法を駆使した接種勧奨にてワクチンの再普及を図ること
(F)メディアに正確な情報を提供すること
「HPV感染リスクと子宮頸がん発症リスクを減らすためにはHPVワクチンの接種が重要。厚労省が積極的勧奨を再開する際にこれらの対策をとることで、子宮頸がん発症率の減少と、日本の女性の健康が守られることを期待している」と強調しています。

文献